2016年09月07日
大山拓次 准教授らによるDNA複製に関するタンパク質の構造生物学研究が国際学術雑誌に掲載されました

生命工学科 大山拓次(准教授)らの研究グループは、九州大学(石野良純教授グループ)、長浜バイオ大学(白井剛教授グループ)と共同で、DNA複製に重要なGANというユニークなタンパク質の立体構造を原子レベルで明らかにしました。この研究成果は国際学術雑誌『Nucleic Acids Research』に掲載されました。

掲載雑誌:Nucleic Acids Research, Advance Access at September 5, 2016
論文タイトル:Atomic structure of an archaeal GAN suggests its dual roles as an exonuclease in DNA repair and a CMG component in DNA replication.
著者:Takuji Oyama, Sonoko Ishino, Tsuyoshi Shirai, Takeshi Yamagami, Mariko Nagata, Hiromi Ogino, Masami Kusunoki and Yoshizumi Ishino

要約:我々ヒトを含む真核生物のDNA複製の初期段階では、MCMヘリカーゼというタンパク質が2本鎖DNAを2本の1本鎖DNAにほどきます。ほどかれた1本鎖DNAのそれぞれに相補的な新しいDNA鎖が合成されることで、DNAは2倍にコピーされます。MCMはCdc45およびGINSと呼ばれる2個のタンパク質因子によって活性化されますが、活性化因子を含め、MCMがDNAをほどく仕組みについてはまだ詳しく分かっていません。今回、大山准教授らはX線結晶構造解析法という手法を用い、古細菌という生物のDNA複製システムで機能する活性化因子であり、Cdc45と同じ働きをするGANというタンパク質の立体構造を詳しく解析しました。GANは本来DNA修復の過程でDNAを切断する酵素ですが、立体構造解析から、DNA修復においてもDNA複製においても機能することが出来るような「ハイブリッド構造」を持つ、非常に珍しいタンパク質であることが明らかとなりました。

図1:古細菌由来GANタンパク質の立体構造(中央)と関連タンパク質RecJ(左下)およびCdc45(右下)との構造比較。GANはRecJとCdc45の両方に似た領域を併せ持ち、DNA修復にも複製にも機能すると考えられる。

大山准教授らは長年、古細菌というユニークな生物のDNA複製に関わるタンパク質の立体構造解析を行っています。というのは、古細菌が持つDNA複製システムは1:真核生物のシステムに似ており 2:真核生物より単純な構成であり 3:熱安定性に高いなど、複雑な真核生物システムの有用なモデルとなるからです。そして実際、これまでの解析から、古細菌由来のタンパク質は、真核生物のタンパク質と構造、機能とも非常に良く似ていることを明らかにしてきました(1)。なお、二つの生物界のDNA複製タンパク質が非常に良く似ていることから、真核生物は古細菌から進化したかもしれないという仮説も提案されているほどです。

図2:真核生物および古細菌のDNA鎖解きほぐし複合体の構成成分の比較。古細菌複合体は真核生物複合体よりも簡略化されたバージョンである。

我々ヒトを含む真核生物のDNA複製の初期段階では、MCMというタンパク質が親の2本鎖DNAを2本の1本鎖DNAにほどきます。ほどかれた1本鎖DNAに相補的な新しいDNA鎖が合成されることで、DNAは2倍にコピーされます。MCMはCdc45およびGINSという2個のタンパク質因子によって活性化されますが、その活性化因子の役割を含め、どのようにMCMがDNAをほどくのか、詳しい仕組みはまだよく分かっていません。
 2000年以降、様々な生物の全ゲノム解析が完成し、より多くのゲノム情報が活用される時代となりました。古細菌では既に30以上の種のゲノムが完全解読されています。そのような状況下、古細菌のMCMやGINSがすぐに発見されたのに対し、古細菌のCdc45はいつまで経っても発見されず、もしかすると古細菌はCdc45を使わない方法でDNA鎖をほどくかもしれないという考え方さえ有り得る状況でした。そんな中、本来DNA修復で働くGANというタンパク質が実はCdc45と同じ働きをするかもしれないという仮説が提唱され、仮説を支持する研究が幾つか報告されました。今ではこの仮説は広く支持されています。しかし、GANはそもそも大腸菌などの細菌が持つDNA切断酵素であるRecJによく似ているため、なぜGANがCdc45に似た働きを持つのか、その理由は全く分かっていませんでした。
 そこで、大山准教授らはX線結晶構造解析法(2)という手法を用いてGANタンパク質の立体構造を詳しく解析しました(3)。その結果、GANは、細菌のRecJと真核生物のCdc45の2個のタンパク質の特徴を併せ持ったハイブリッド型の構造を持つこと明らかとなりました(図1)。つまり、GANはDNA切断酵素の活性を持ち、DNAの修復においても、また、DNA複製においてはDNA鎖をほどく活性を高めるという、2個の機能を持つことが分かりました。このようなユニークな構造を持つGANは、もしかするとRecJとCdc45の間の進化中間体かもしれません

さらにこの研究では、GANが、もう1個のDNA解きほぐし活性化因子であるGINSと結合した複合体の構造も解析しました(3)。MCMと2個の活性化因子は、MCM→Cdc45(またはGAN)→GINSの順番にDNAに装てんされ、DNA上で初めて3個が複合体を形成すると考えられています。今回の解析から、最後にDNA鎖に結合するGINSは、その一部の領域(Gins51C)をフックとして使い、遠く離れた位置にあるGANに先にフックだけを引っ掛け、その後GINS本体とフックを繋ぐひも状の領域(ループ)をたどることでDNA上に到達する、という非常にユニークでダイナミックな仕組みを提案しています(図3)

図3:(上)GINS4量体とGAN-GINSフック領域複合体の構造比較。フック領域はGINS本体にもGANにも同じ表面を使って結合するため、フックがGANに結合するには本体から離れて、結合面を露出する必要がある→フックが動きやすい領域であることを示す。
(下)GANとGINSがDNA上で結合する仕組み(予想図)。1:MCMに続き、GANがDNA鎖に装てんされた後、GINSのフック領域のみがGANに結合する。2:GINS本体はフックに連結している長いループ領域をたどってDNA鎖状のGANに接近する。3:DNA上でMCM-GAN-GINSからなるDNA鎖解きほぐし複合体が形成される。

このように、X線結晶構造解析ではタンパク質などの生体高分子間の相互作用が原子レベルで明らかになり、タンパク質の機能を詳しく知ることができます。一つの結晶構造は一連の反応のある場面を捉えたスナップショットに相当しますが、別シーンを捉えた構造と詳しく比較することにより、ダイナミックな運動を明らかにすることが可能です。今回の研究では、MCMの活性化因子を詳しく解析しました。今後、MCM、GAN、GINSの3個のタンパク質が実際に複合体を形成した姿を解析し、DNAの解きほぐし反応を詳しく知ることができれば、生命の神秘に一歩近づけるかもしれません。

(1) PDBjエントリーコード 3ANW:http://pdbj.org/mine/summary/3anw
(2) X線結晶構造解析は、目的タンパク質やDNAの単結晶を作り、その結晶にX線を照射して得られる無数の回折点を測定し、回折点に含まれる情報を特殊な計算により取り出して立体構造を導く方法です。
(3) 構造に関する詳しい情報は、日本プロテインデータバンク(PDBj)に登録されたデータをご参照下さい
* GAN単体:登録コード 5GHT:http://pdbj.org/mine/summary/5ght (近日公開予定)
* GAN-GINS複合体:登録コード 5GHS:http://pdbj.org/mine/summary/5ghs (近日公開予定)
 


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