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2020年11月20日
日本固有の醸造用白ブドウ品種「甲州」のゲノム解析に関する研究が国際学術誌に掲載されました

   地域食物科学科(ワイン科学研究センター)の榎真一助教と東京農業大学生物資源ゲノム解析センターの共同研究チームによる、日本固有の醸造用白ブドウ品種「甲州」のゲノム解析に関する研究が国際学術誌「Frontiers in Plant Science」に掲載されました。国際ブドウ・ワイン機構に2010年に登録されている「甲州ブドウ」は、主に山梨県で栽培されている日本固有の欧州系白ブドウ品種です(図1)。近年、これを原料とした「甲州ワイン」は、国際コンクールで受賞されるなど注目を集めています。特徴的なピンク色の果実の甲州ブドウを醸造した甲州白ワインは、柑橘系の香りと程よい酸味やわずかな渋みなど繊細な味わいを持ちますが、それらの特徴に影響を与えている「甲州ブドウ」の遺伝的な特徴は、これまで未解明のままでした。

 そこで榎助教らは、東京農業大学との共同研究により、甲州の全ゲノム情報を初めて解読し、その他の醸造用ブドウ品種とゲノム情報を比較することで甲州の遺伝レベルでの特徴付けに成功しました。その結果、甲州の系統関係はその他の欧州系醸造用ブドウ約130種とは離れた独特なものでした(図2)。また赤ワイン用品種Tannatと食用や加工用にも使用される白ワイン用品種Thompson Seedlessと比較して、甲州は機能性が異なると推定される複数の遺伝子が発見されました(図3)。それらは、特にポリフェノールや柑橘系の香りに関係することが明らかになり、これまで言われているような甲州ブドウの特徴がゲノムレベルで科学的に裏付けられました。研究の成果は、甲州ワインの品質向上のための情報基盤となる他、ブドウの研究やワイン産業における甲州の遺伝資源としての利用促進への貢献が期待できます。

   この研究成果は原著論文として国際学術誌「Frontiers in Plant Science」に11月5日付で掲載されました。電子版は既に公開されていますので、詳しくは学術誌ウェブページをご参照下さい。
「Genomic characterization of Japanese indigenous wine grape Vitis sp. cv. Koshu.」
Keisuke Tanaka, Yu Hamaguchi, Shunji Suzuki, Shinichi Enoki* (*責任著書).
https://doi.org/10.3389/fpls.2020.532211


図1 日本固有の醸造用ブドウ品種「甲州」
主に山梨県で栽培されている、特徴的なピンク色の果実も持つ白ワイン用品種。柑橘系の香りと程よい酸味やわずかな渋みなど繊細な味わいの「甲州ワイン」ができる。


図2 甲州ブドウの系統樹
甲州と他の欧州系品種との全葉緑体ゲノムを比較した系統樹。欧州で有名な食用・白ワイン用品種の「Thompson Seedless」や赤ワイン用品種の「Tannat」などの他の品種と比べて「甲州」はどのグループにも属さないユニークな系統関係を示した。


図3 甲州ゲノムの機能的特徴付け
各品種のゲノム比較により、甲州はポリフェノール生成に関するフェニルプロパノイド経路において、赤ブドウのような変異が見られるなどの特徴を示した。

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