【研究テーマ】物質循環から見た農業が環境へ与える影響

山梨大学 生命環境学部 環境科学科
教授 新藤 純子
ホームページ

物質循環から見た農業が環境へ与える影響
 
教授 新藤 純子
 
20世紀初頭に約16億人だった世界の人口は、現在70億人を超えています。この人口増加は作物生産の飛躍的な増大により実現しましたが、これを支えたのが20世紀の初めに工業生産が可能となった窒素肥料です。特にアジアでは1980年頃から窒素肥料の使用量が増大し、現在世界の約65%を使っています。
従来、陸域の動植物は特殊な酵素を持つ微生物により大気中窒素から固定される約1t/年の窒素(有機態窒素やアンモニア態、硝酸態など、反応性窒素と呼ばれます)を利用して生きていました。現在、世界の窒素肥料使用量も約1t/年、この他化石燃料の燃焼により約2500tの窒素が陸域へもたらされ、陸域生態系を循環する窒素の量は100年前の約2倍になりました。余剰の窒素は環境へ流出し、地下水汚染、河川・湖沼の富栄養化などの水質汚染を引き起こしています。また、揮散したアンモニアは広域に拡散・移流して自然生態系の生物地球科学的な循環に影響をおよぼし、亜酸化窒素が地球温暖化やオゾン層破壊の原因となるなど、様々な環境問題の原因となっています(図1)。
図2は、様々な統計データや気象データ、土地利用データなどに基づいて、窒素フローモデルを用いて東アジア河川の窒素濃度(mgN L-1)を推定した結果です。1990年頃から急激に中国の東部やインドの一部で濃度が上昇し、高濃度の領域が拡大してきたことが推定されました。一方、日本は大きな変化は見られませんが、1980年代半ば以降徐々に濃度が低下しています。また、ほとんど化学肥料を利用せずに収奪的農業を行っている地域も存在していることがわかりました。
東アジアでは、今後インドや東南アジアで人口が増加するとともに経済発展に伴って食生活が変化する(肉類の消費量増大など)ことも予想されています。環境への負荷を削減しつつ必要な食料を生産するために、どのような対策をとるべきか、それぞれの地域の実情を考慮しながら考えることが重要です。
(なお、ここに示した結果は、前任地の(独)農業環境技術研究所において行ったものです。)

▲ ページの先頭に戻る